個人研究報告投影資料

イベント当日の教材

Ⅰ. はじめに
- 目的:日本のPBL型探究学習の問題点を踏まえ、ボードゲーム「不平等なモノポリー」を活用した高大接続プログラムの実践と知見を紹介し、有効性を検討
Ⅱ. 社会的・学術的背景
1. 高等教育における探究活動
- 生徒が社会問題を取り上げ、その解決策を提案
- PBL(Problem-based Learning)
- 「問題解決」という枠組みの問題点
- 扱われる問題の性質を無意識のうちに限定
- 「解決可能であること」が暗黙の前提
- 比較的短期間で改善や提案が可能な課題に焦点が当たりやすい
- 扱われる問題の性質を無意識のうちに限定
2. 「問題解決」志向=PBL?
- Graham Parton・Richard Bailey (2008)
- PBLの理論的基盤をカール・ポパーの認識論によって基礎づける
- 学習者が彼らの経験や予測に反する事態に直面することで生じる不安と、そこに起因する「問い」を重視
- PBL = 問い(problem)を起点(base)とする学習
- 学習 = 学習者の理解が形成される過程そのもの
- → PBL:批判的思考と親和的
- Cf. 日本のPBL
- 課題解決能力の育成を目的とする学習法と解されている
- Problem-solving-oriented Approach Cf. 松下佳代・杉山芳生 (2018)
3. 大学にできることは何か
1 「高校学校等で実施できている活動を単純に高度化するだけでは、敢えて大学が高大接続事業を行う意義が乏しい」(阪口篤志 (2023), 21) 。「体験すること自体、活動すること自体に重きを置くとともに、学びの場で生じる様々なコミュニケーション」(阪口篤志 (2023), 21) 。
2 「ゲームの中で,他プレイヤーに生じるハプニングに共感したり、時に手助けしたりすることは、ピア・サポートの疑似体験としても位置付けられる」(萩原広道・佐藤浩章・大山牧子・佐野泰之・長沼祥太郎 (2025), 72)。
- 本報告:これらの先行研究のなかに「不平等なモノポリー」実践の位置付けを探る
Ⅲ.「不平等なモノポリー」
1. 若年層の経済認識
- 「「社会意識に関する世論調査」(2021年〜2025年のデータを集計)」
- 「18〜19歳」層
- 経済的困難に対する認識が相対的に低い
- 経済格差が経験的に理解されにくい構造をもつ
- → 若者の多くがこの点を自らの問題として捉えられていないことを示唆
- 「18〜19歳」層
2. 「不平等なモノポリー」
- 開発者:フランスの不平等観測所
- ボードゲーム「モノポリー」を拡張させる追加キット(公式サイト)
- 利用実態:
- フランス:大人・若者向けのワークショップ;小学校の教育現場で活用
- 日本:管見の限り「不平等なモノポリー」の活用事例はない
- プレイヤーの初期条件
- 人種や性別、障がいの有無などによってプレイヤーは、A群、B群、C群に分類される
- スタート時の資産状況が大きく異なる
- 最初のゲームのプレイヤーは白人フランス人中年
- ゲーム内のルール
- 一タームのうちに振れるサイコロの数:
- A群、B群:2回;C群:1回
- 駅:駅間を瞬時に移動するワープ機能をもつ
- 障がい者は駅を利用できない(独占が進む土地を避けられない)
- 一タームのうちに振れるサイコロの数:
- 38種類のイベントカード
- 格差を広げるカード;格差を縮小するカード;プレイヤーの差別の無自覚性に気づかせるカード;ゲームのルールを変更するカード
Ⅳ. 実施概要
1. 概要
- イベント名:「ボードゲームで考える社会の平等と不平等」
- 対象:大学進学を志望する高校生を対象
- 金沢大学高大接続プログラムLiveセミナーの一つとして実施
- 実施日(参加人数)
- 2025年3月(9名);2025年12月(9名)
- 遠方の参加者が比較的多い:東京都;新潟県;愛知県;岡山県
2. 構成
- グループワーク(ボードゲーム前)
- 不平等だと感じるのはどんなときですか?;平等と感じるのはどんなときですか?;日本の社会は平等だと思いますか?不平等だと思いますか?それはなぜですか?
- ボードゲーム
- 1回目:プライヤーの選択はランダム;2回目:1回目にA群だった者はC群、C群はA群に、その他はランダム;ゲーム終了条件:時間、破産者が一人出た場合のいずれか
- ミニ講義
- 数字で見る平等と不平等;数字からは見えない平等と不平等:日本;世界価値観調査; 政治学者の考える平等と不平等(マイケル・サンデル;ロールズ);社会学者の考える日本の分断(吉川徹『日本の分断』)
- グループワーク(ボードゲーム後)
- 日本に置き換えたとき、どのようなプレイヤーを登場させるべきだと思いますか?;日本に置き換えたとき、どのようなイベントがあると現代の日本社会を表現できると思いますか?
3. 結果
- 第2回目(2025年12月)の結果
- 概ねプレイヤーの初期条件がそのまま結果に反映された
- A群は富豪に、C群は貧困者に、B群の中にはA群を上回る者もあり
- ボードゲーム時の特徴的な行動
- イベントカード「ゲームのルールを変更する」を引いた際は、障がい者の是正(サイコロを2回振れるように改正)が図られた
- A群プレイヤーによって資産の独占が進もうとする際は、他のプレイヤーが団結してそれを阻止する行動が見られた(「絶対、売っちゃダメ」)
Ⅴ. 考察
1. 有効性
- 参加者は大学進学を目指す者であり、経済的困窮の当事者とは言い難いものの、経済格差が個人の努力だけではなく、社会的条件のもとで再生産されるものであることを、疑似的にではあるが理解する契機に
2. 課題
- 日本を主題とする議論には手詰まり感
- 盛り上がったトピック
- 地元にイオンがないといった地域格差;政治家などの「特権階級」
- 「人種や性別、障がいの有無」のような見えづらい格差は議論の主要な対象にならず
3. 先行研究との関係と今後の課題
1. 先行研究との関係
- 学びにおけるコミュニケーション:講義+グループワークよりも、自然なコミュニケーションが生まれている
- ピア・サポートの疑似体験:疑似体験を通して「階級」内ピア・サポートあり;ゲームの進行をお互いに助け合う
- PBL: 2回のイベントだけでは確定的な評価困難(入学後の追跡調査を要す)
2. 今後の課題
- 本実践は「体験とコミュニケーションの場」として一定の意義をもつが、さらなる設計上の工夫が必要
- 時間配分;グループワークのテーマ;ミニ講義の内容
- → 体験と理論を往還させる学習過程をどう組み込むか
- → ディシプリン(例:社会学)への誘い=学問の楽しさ、大学で何をどう学ぶのか、など
- Cf. 学力偏差値や(数学の得意不得意に起因する)文系/理系による消極的な大学・学部選択
参考文献
Graham Parton・Richard Bailey (2008) 「Problem-based learning: A critical rationalist perspective」. 『London Review of Education』, Vol.6, No.3, pp.281–292. Available at: http://dx.doi.org/10.1080/14748460802528475.
松下佳代・杉山芳生 (2018) 「PBL(problem based learning)の多分野展開における変容:三重大学を事例として」. 『大学教育学会誌』, Vol.40, No.1, pp.73–82. Available at: https://cir.nii.ac.jp/crid/1050001338453520896.
萩原広道 et al. (2025) 「ボードゲーム型教材「DAIGAKU」の多様な教育活用:高大接統,初年次教育,就職活動」. 『大学教育学会第47回大会 発表要旨集録』, pp.71–72.
阪口篤志 (2023) 「高校生向けスクール形式のプログラムから見る高大接続」. 『大学教育学会誌』, Vol.45, No.2, pp.19–22.
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