ボードゲームで考える社会の平等と不平等《2025》

金沢大学 KUGS高大接続プログラム Liveセミナー

Author
Affiliation

苅谷 千尋, PhD

金沢大学 教育支援センター

Published

Saturday, 20, Dec, 2025

Modified

Saturday, 20, Dec, 2025

Ⅰ. イントロダクション

1. 本日のスケジュール

前半

  • 13:00-13:10 イントロダクション
  • 13:10-13:35 アイスブレイク
  • 13:35-13:55 グループワーク①
  • 13:55-14:10 ルール説明
  • 14:10-15:00 実践「不平等なモノポリー」第1ラウンド

休憩(10分)

後半

  • 15:10-16:00 実践「不平等なモノポリー」第2ラウンド
  • 16:00-16:20 ミニ講義
  • 16:20-16:45 グループワーク②
  • 16:30 まとめ
    • KUGS高大接続プログラム; 感想; アンケート
  • 17:00 終了
    • 金沢駅行きのバス(金沢大学中央バス停)
      • 17:11 / 17:31

2. 自己紹介

  • 専門:政治思想史
    • 18世紀イギリスの議会政治
    • 18世紀におけるレトリック受容
    • 18世紀における主権概念と国際法、帝国
  • 最近の興味関心
  • 講義:ビブリオバトル入門:ブクログ

3. 趣旨説明

Liveセミナー

  • 一般的なボードゲーム:全員が平等な条件でゲームが開始
  • 「不平等なモノポリー」:
    • 一部のプレイヤーは、ゲームの最初から勝つ見込みがない
    • 他のプレイヤーよりもコマの進みが明らかに遅いプレイヤーもいる
      • 最初に引いたカードによって「イージーモード」か「ハードモード」が確定
      • このような不平等こそ現在の社会を反映
  • セミナーでは、ゲームとディスカッション、簡単なレクチャーを通して、政治や社会のあり方について考えます

ボードゲーム「不平等なモノポリー」を開発した理由:今こそ、ルールを変えるとき

れるのか?」――これが、今あなたの手元にあるこのツールキット〔「不平等なモノポリー」〕を作るきっかけとなった問いでした。社会的正義を求めるならば、私たちの社会に存在する分断を明るみに出さなければなりません。それによって、一部の人々が目を背けたがるような不公平さが浮き彫りになることもあるでしょう。例えば、裕福な人と貧しい人の間にある圧倒的な格差、今なお根強く残る性差別や人種差別などが挙げられます。しかし、ただ事実を伝えるだけでは、「どうせ何をしても変わらない」という諦めを助長してしまう恐れがあります。特に、すでに多くの困難に直面している人々が「こんなに不平等なら、自分には何の希望もない」と感じてしまえば、問題を解決するどころか、むしろ逆効果になってしまうのです。

不平等や差別について意識を高めることは、とても繊細な作業であり、私たちは常にバランスを取りながら進まなければなりません。「やる気さえあればできる」という単純な考え方に陥ると、失敗をすべて個人の責任に押し付けてしまうことになります。一方で、「不平等という仕組みによって、恵まれない人々は最初から報われない運命にある」と決めつけるのも避けなければなりません。こうした極端な考え方から抜け出すために、私たちのツールキットでは、ゲーム、討論、深い思考の機会を提供できるさまざまな教材を用意しています。話し合いを通じて、普段あまり考えないような問いに向き合うことができます。たとえば、「人生の成功とは何か?」「お金持ちとはどういうことか?」「私は恵まれているのか?それは誰と比べて?」といった問いです

社会の中での役割に対する固定観念が、不平等を生み出す一因となっています。私たちは、「違う未来もあり得る」ということを伝えたいのです。統計の数字の裏には、実にさまざまな生き方があるということも。そして、私たちは周りから支えを受けることができるということも。みんなで力を合わせれば、社会のルールを変えることだって可能なのです。実際のところ、人は決して一人だけで成功したり、失敗したりするわけではありません

  • 不平等観測所(Observatoire des inégalités)
    • コンスタンス・モニエ(ディレクター)

Ⅱ. アイスブレイク

Ⅲ. グループワーク①

日本の平等と不平等

  • 不平等だと感じるのはどんなときですか?
    • 実体験 / 社会
  • 平等と感じるのはどんなときですか?
    • 実体験 / 社会
  • 日本の社会は平等だと思いますか?不平等だと思いますか?それはなぜですか?

Ⅳ.「モノポリー」ルール説明

1.「(オリジナル)モノポリー」ルール説明

  • 物件を占有し、他のプレイヤーを破産させるゲーム
    • 自分が所有している物件に相手が止まるとお金を奪える
    • 相手が所有している物件に自分が止まるとお金を取られる
    • 支払額に届かなければ、その瞬間に破産(ゲームから脱落)
  • 動画
    • 公式動画(タカラトミー)via YouTube
    • ボドゲ紹介チャンネル viaYouTube

2. (オリジナル)モノポリーの作成動機とその後

  • 当初の目的:社会制度の不平等を暴く
  • 通俗的理解:不動産を所有するのは賢い

このゲームを作ったそもそもの動機は、ひと握りの地主が借地人から徴収した地代で儲ける、社会制度の不平等を暴くところにあった。〔略〕現実の世界は辛くても、モノポリーで遊んでいるときは、通りをまるごと買い占める夢さえ見られる。このゲームが教えてくれるのは、最初の考案者が意図した点とはまったく逆で、「不動産を所有するのは賢い」ということだ。持てば持つほど、カネになる。とく に英語圏では、投資するなら家屋に勝るものはないことが、万人の認める真理になった(ファーガソン,ニーアル・仙名紀(訳) (2015), 320-322)。

2.「不平等なモノポリー」ルール説明

「不平等なモノポリー」ルール説明

  • 基本的なルールは「(オリジナル)モノポリー」と同様
  • 主な変更点:
    1. プレイヤーの初期条件が大きく異なる
    2. ゲーム内のルールがプレイヤーによって異なる
  • セミナーのルール
    • 破産者が3人出た時点で、ゲーム終了(その時点でもっとも資産が多い者がチャンピオン)
  • 公式動画(全体)viaYouTube
  • 公式動画(子ども)via YouTube
    • 「なぜ」を連発する子どもたち
    • 社会科学系の研究においても、この「なぜ」こそ重要

Ⅴ.実践「不平等なモノポリー」

  • 「不平等なモノポリー」第1ラウンド
  • 「不平等なモノポリー」第2ラウンド
    • 「不平等なモノポリー」はグループ合同で行います
    • 第1ラウンドと第2ラウンドでは、異なるカテゴリになるように調整します

Ⅵ. ミニ講義

  1. 数字で見る平等と不平等
  • 所得分配構造
  • ジニ係数
  • 貧困削減率
  • 失業時所得代替率
  • 現場労働者の純賃金
  1. 数字からは見えない平等と不平等
  1. 世界価値観調査
  • 人生は自分の思い通りになるか
  • 競争か平等か
  1. 政治学者の考える平等と不平等
  • マイケル・サンデル:能力主義 vs. 貴族主義
  • ジョン・ロールズ:無知のヴェール
  1. 社会学者の考える日本の分断
  • 吉川徹『日本の分断:切り離される非大卒若者たち』

    ここで、現代日本の時代の流れのなかでの、レッグスたちの位置づけを論じ直しておきましょう。そうしなければ、レッグスという言葉は、ことによると、あらぬ方向に向かって一人歩きしかねません。〔原文改行〕まず、彼らが世代を超えて再生産される筋道をたどっておきます。〔原文改行〕現代日本社会の現役世代の夫婦の内訳は、大卒同類婚が約35%、非大卒同類婚が約35%で、合わせてほぼ7割、夫と妻の学歴が異なる夫婦は全体の約3割にとどまります。学歴の世代間関係をみると、レッグスたちの両親は、8割以上が同じ非大卒、しかもほとんどが非大卒同類婚であり、ここには強い学歴再生産傾向をみることができます。〔原文改行〕つまり、レッグスたちは、非大卒同類婚の両親を出自とし、非大卒学歴の世代間継承を経て、自らも非大卒同類婚をして、その子どもたちも再び非大卒層となる……という家族形成の流れのなかにあるのです。こうした学歴再生産の流れは、大卒層のほうでも同様にみられます(吉川徹 (2018), pp.225–226)。

Ⅶ. グループワーク②

  • 「不平等なモノポリー」を体験した感想を自由に言い合おう
    • 例:なぜ同じ行動を取ったのに勝差が大きくついたのか
      • 努力や判断は、どこまで結果を左右したか(運か実力か)
  1. 日本に置き換えたとき、どのようなプレイヤーを登場させるべきだと思いますか?
  2. 日本に置き換えたとき、どのようなイベントがあると現代の日本社会を表現できると思いますか?
  3. 日本にある不平等の中で、ルールを変えることで特に改善できそうなものを1つ選び、その不平等を小さくするために「もっとも効果があると思うルール」を考えてください
    • これまでの研究で、すでに「意識を変える」「ポスターを貼る」だけでは、不平等はあまり小さくならないことがわかっています。しくみやルールがどう変わるかに注目して考えてみましょう

Ⅷ. まとめ

1. 高大接続プログラム「大学での学び」レポート

  • このプログラムは金沢大学KUGS高大接続プログラム(大学での学び)の対象です
    • KUGS高大接続プログラム(の修了)
    • ➡ 「KUGS特別入試」の出願資格要件
  • 締め切り:開催日(本日)から 1か月以内
  • 特別入試に興味がある方は公式サイトをご覧下さい

課題内容

  • 題名:「あなたが受講した個別プログラム名」
  • 本文:
    1. 「受講した個別プログラムの要約」
    2. 「受講して気づいた課題(問題)」
    3. 「その課題(問題)を解決するために必要と思われる方策」について,あなた自身の考えを根拠に基づき具体的に記してください。

注意事項

  • 要約はこのセミナーに参加していない者が読んでもわかるように書きましょう
  • 感想文にならないように注意しましょう
  • 受講して気付いた課題を明確に書けるかどうかが鍵です
  • 課題は内容にかかわる社会的な事柄(自分の事柄ではない)にしましょう

高大接続プログラム フローチャート

  • 参加証と主体性評価1

2. 感想

3. アンケート

  • 提出先:Google Forms
  • 締め切り:明日(12月21日(日)23時59分)

参考文献

OECD (2024) 「OECD data explorer」. Available at: https://www.oecd.org/en/data/datasets/oecd-DE.html.
Lyle Scruggs (2022) 「Comparative welfare entitlements project data set, version 2022-12」. Available at: http://cwep.us/.
ファーガソン,ニーアル・仙名紀(訳) (2015) 『マネーの進化史』, 早川書房.
吉川徹 (2018) 『日本の分断:切り離される非大卒若者たち』, 光文社.