政治学概論Ⅰ《2025》

#12 地方自治(1)

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苅谷 千尋, PhD

金沢大学 教育支援センター

Published

Thursday, 5, Feb, 2026

Modified

Saturday, 21, Feb, 2026

Keywords

地方分権一括法;「民主主義の学校」;中央地方関係;自治事務;法定受託事務;紛争調整制度

Ⅰ. 地方自治と地方自治体

1. 『公共』(東京書籍)

  • (単元)地方自治のしくみと役割
    • 地方自治と民主主義
      • 「民主主義の学校」;団体自治;住民自治;二元代表制
    • 地方財政のしくみと課題
      • シビル・ミニマム;三割自治;地方分権一括法

2. 自治体の取り組み

  • 地方分権の進展に伴い、行政サービスの内容は自治体ごとに差が生じる
    • ➡︎ 有権者にとって、首長選挙や議員選挙は、抽象的な政治姿勢ではなく、具体的な政策選択として意味をもつ
  1. 子育て支援に力を入れる自治体
  2. まちづくりに力を入れる自治体
  3. 民間委託を進める自治体

1 「厚生労働省は2015年、学童保育運営の「従うべき基準」を施行。「放課後児童支援員」という公的な資格が設けられ、都道府県単位で資格研修を行っている。水野さんを含む3人はその講師を務めてきた。次世代の人材養成を託されるベテラン指導員である。3人の研修を受けたことのある大阪府内の指導員らは、「実践的な内容で役に立った」「あんなに経験がある人たちが雇い止めとは、あってはならないこと」と口をそろえる」。

3. 地方自治の思想:「民主主義の学校」

  • ブライス『アメリカ共和国』

    この際、述べておきたいことは、民主的な統治が国民の関心をもっとも引きつけ、そのなかから才能ある人材を生んできた国家は、スイスとアメリカである、という点である。とくに、アメリカの北部と西部の諸州は、田舎的な地方自治がもっとも発達した地域である。これらの例は、民主主義の最良の学校であり、それ成功させるための最良の保証は、地方自治の実践(local self-government)であるという格言の正しさを教えてくれる(ジェームズ・ブライス)

  • トクヴィル(1805-1859)

    • フランスの政治家・政治思想家
    • 主著:『アメリカのデモクラシー』
      • 19世紀前半のアメリカを視察
        1. 民主化の不可避性
        2. 民主政の可能性:市民の自発性に基づく活力ある社会
        3. 民主政の問題:多数の暴政

      自由な人民の力が住まうのは地域共同体の中なのである。地域自治の制度が自由にとってもつ意味は、学問に対する小学校のそれに当たる。この制度によって自由は人民の手の届くところにおかれる。それによって人民は自由の平穏な行使の味を知り、自由の利用に慣れる。地域自治の制度なしでも国民は自由な政府をもつことはできる。しかし自由の精神はもてない(トクヴィル)

  • 日本国憲法

    • 日本国憲法:憲法第92条「地方自治の本旨」
    • 住民自治と団体自治
      • 住民自治:住民自らが地域のことを考え、自らの手で治めること
      • 団体自治:地域のことは地方政府(地方公共団体)が自主性・自立性をもって、中央政府の干渉を受けることなく自らの判断と責任の下に地域の実情に沿った行政を行っていくこと
  • 金井利之

    • 日本の地方自治研究者が、地域住民ではなく、自治体職員目線で研究していることを批判

      でも、この〔『地方自治論:2つの自律性のはざまで』の〕「はしがき」には自治体研究における職員中心の為政者目線の雰囲気がいっぱいです。「中央政府に対する自律性が高められた結果、地方政府は地域社会に対する自律性が低くなるでしょう」なら、たぶんそのとおりなんだと思うのですが、実際の5頁には「なってしまうでしょう」と書かれています。もう、これは「国に対して自律性が高まってよかったけれど、住民から文句言われるようになって迷惑な話だな」という行政職員の気持ちが出ていると思います。こんなことなら、むしろ国に対する自律性が低いほうが楽だという嘆息すら聞こえます。本書の視点は、行政職員の発想と同じだと思います(北村亘・青木栄一・平野淳一・金井利之 (2018))。

  • 西尾勝

    そこ〔自治体若手職員向けセミナー〕で訴えたことは、地方分権改革とは、自治体の首長や職員や議員のためではなく、住民のまちづくりを活性化させるためにあるのだ、ということです。(原文改行)これまで実現した改革は、知事や市区町村長たちの数量範囲を広げたり議会職員の仕事をしやすくしたことを義務づけてりすることを狙ったものでした。この改革の成果を、住民が参加するまちづくりにつなげてほしいのです(読売新聞「時代の証言者 | 地方分権の夢 西尾勝 21 出てこい「考える職員」2014年10月11日」)。

Ⅱ. 中央地方関係

1. 地方分権一括法(第1次分権改革)

  • 中央政府・地方政府関係は対等であるという原則のもとに、機関委任事務に代わり成立(2000年4月に廃止)
  • 首相直轄の地方分権推進委員会で議論
    • Cf. 地方制度調査会(総務省)
  • 地方分権一括法 - 機関委任事務の45%は法定受託事務に
    • 残りの55%はほぼ自治事務に
    • 中央政府・広域自治体(都道府県庁)・基礎自治体の法的関係、対等に
    • 「通達」の位置付け:総務省から各自治体への「通達」の位置づけは、 技術的助言であり、法的拘束力はない
  • Cf. 旧機関委任事務
    • 機関委任事務:「中央政府の業務」
      • 地方政府は関与できず
        • 例:上乗せ条例(後述)を設けられず
      • 地方政府は、事実上、中央政府の下級機関
  1. 事務の分類
    1. 自治事務:自治体が自分の事務として行なう業務
      • 例:ゴミ収集;消防活動;教育;介護保険サービス;国民健康保険の給付;児童福祉・老人福祉;障害者福祉サービス;各種助成金等(乳幼児医療費補助等)の交付;公共施設(文化ホール、生涯学習センター、スポーツセンター等)の管理
      • 中央政府の関与:是正の要求まで
    2. 法定受託事務:本来、中央政府が果たすべき業務であるが、適正な処理を行なうために法令にもとづいて地方政府に処理をゆだねている業務
      • 例:国政選挙;パスポートの交付;国の指定統計(国勢調査など);国道の管理;戸籍事務;生活保護;自衛官募集事務
      • 中央政府の関与:是正の指示;代執行等(強い関与)。ただし、法律もしくは政令を根拠とする
  2. 条例
    • (自治事務と同様)法定受託事務も条例制定権の対象に
    • 条例は法律の範囲内(日本国憲法第94条;地方自治法第14条第1項)。ただし、法令の空白かつ基本的人権および公共の福祉に反しないものについては条例の制定を妨げず
    • 上乗せ条例:ある事柄について法律が規制している事項を、地方公共団体の条例で、それよりも厳しい規制を定めるもの
      • 例:化学物質の排出基準:法律10ppm以下;条例5ppm以下
    • 横出し条例:ある事柄について法律が規制している場合、その法律が規制している「分野」内で法律が規制している「範囲」外の規制するもの
      • 例:有害物質の対象:法律ホルムアルデヒドのみ;条例トルエンも加える

2. 第2次分権改革

3. 中央地方関係の調整制度

  • 地方分権改革以降、中央政府と地方政府は法律上は対等な関係とされているため、意見が対立した場合でも、中央政府が一方的に命令することはできず、調整が必要となる
  1. 国地方係争処理委員会
    • 地方政府は、中央政府の是正指示などに不服がある場合に、審査を申し出ることができる
    • 総務省の第三者委員会
      • 定数:5名
      • 優れた識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、総務大臣が任命
    • 例:大阪府泉佐野市 ふるさと納税制度問題;沖縄県名護市 辺野古サンゴ移植問題
  2. 全国知事会
    • 地方分権のもとで、国と「対等な立場」で政策協議を行うために、都道府県知事が横につながって意見をまとめる組織 2
    • 地方、現場の視点に立った問題提起
      • 国の施策並びに予算に関する提案・要望書

      • 例:外国人問題:多文化共生しなければ社会が成り立たないという現状認識 3

        従前より、地方から国に対しては、外国人集住都市会議や多文化共生推進協議会といった自治体連携の枠組み等を使って声を届けてきたが、国が多文化共生施策に主体的・戦略的に取り組むための根幹となる基本法の策定や組織の設置には至っていない。(原文改行)以上を踏まえ、全国知事会では、外国人の受入れと多文化共生社会の実現に国が責任を持って取り組むよう、強く要請する。

  3. 非常時に国が自治体に必要な指示を出せるようにする地方自治法改正(2024年)
    • 新型コロナウイルス禍を教訓に、非常時に限り、国が地方自治体に対して危機対応について指示できる仕組みを整備
    • 地方分権の流れに逆行すると批判を受ける4 5 6

2 「各都道府県間の連絡提携を緊密にして、地方自治の円滑な運営と進展を図る(全国知事会規約第3条)」(全国知事会ホームページ

3 SBSnews6「全国知事会で”多文化共生社会”実現を目指す共同宣言を承認「排他主義・排外主義を強く否定」各県トップから賛同の意見が相次ぐ」(https://www.youtube.com/watch?v=qGcKp5TJaBY)

4 「国と自治体はもう「上下・主従」でなく「対等・協力」な関係のはずだ。(原文改行)分権改革で、国が自治体を下部組織のように指揮して仕事をさせた機関委任事務を廃止し、国が本来果たすべき仕事を委ねる法定受託事務と、それ以外の自治体が担う自治事務に振り分けた。(原文改行)その際に、国による関与は「必要最小限」で、自治体の「自主性・自立性への配慮」が原則だと地方自治法に明記された。今回の答申はこの分権改革に明らかに逆行する」(「(社説)国の指示権拡充 自治への介入を危惧」朝日新聞、2023年11月27日)

5 牧原出「その場合、この社説が危惧するように、国が一方的に地方に義務づけることが「対等」という原則を破るものだとは私は言えないと考えています。「対等」であるからこそ、国が指示権を行使しても地方自治体がそれに従わない事態も十分ありうるのです。特にこうした指示権は迅速な行動を求める内容であることが通常でしょうから、地方が従わないことで指示が滞ること事態が国にとっては判断ミスとなり、政権にとっては評判を落とすことが明らかです。その意味では、地方が従うことが見越せるからこそ指示権を行使することになり、であるならば指示権を行使するまでもなく地方がその方針に沿って自発的に行動する可能性が高いとも言えます。合理的に指示権が行使されるとすれば、地方の側で決定できない状況があり、国の指示に従って行動するくらいしかできなくなるといった混乱した状況があるといったことが想定されます」(「(社説)国の指示権拡充 自治への介入を危惧」朝日新聞、2023年11月27日)。

6 「非常時に国が自治体に対応を指示できるようにする地方自治法改正案が、参院総務委員会で可決された。本会議で成立する見通し。これまで個別の法律に規定がある場合に行使が限られていた権限を、個別法の根拠がない場合にも広げることが明記された」(朝日新聞「(社説)国の指示権拡大 自治の原則を侵す改悪だ、2024年6月19日」)。

Ⅲ. 地方分権の限界:消滅可能性自治体

7 総務省が3日公表した、住民基本台帳に基づく2025年の人口移動報告で、東京都は転入者が転出者を6万5219人上回る「転入超過」だった。転入超過の人数は前年より1万4066人減った。転入超過となったのは東京都を含めて7都府県。40道府県で転出超過となった。東京一極集中の傾向が変わらず続いている( 東京、続く一極集中 転入超過6万5219人 朝日新聞、2026年2月4日)

Ⅳ. 明日の授業と宿題

  • 地方自治(2);後半のまとめ/ディスカッション
    • 2026年2月6日(金)10:25-; 13:00-
    • 教室:教育学部棟517多目的ホール
  • 宿題:
    1. 授業の感想:
      • 回答先: Google Form
      • 締め切り:2026年2月5日(木) 23時59分
      • 2限、3限、どちらの内容で書いても問題ありません
    2. ディスカッション2(2月6日3限)の準備(アイデアやメモでよい)

References

北村亘 et al. (2018) 「座談会 地方自治研究のあり方とは:『地方自治論:2つの自律性のはざまで』刊行に寄せて」. 『書斎の窓』, No.9月(659), pp.4–21.