政治学概論Ⅰ《2025》

#1 イントロダクション

Author
Affiliation

苅谷 千尋, PhD

金沢大学 教育支援センター

Published

Wednesday, 3, Dec, 2025

Modified

Saturday, 20, Dec, 2025

Keywords

成績評価;中等教育と高等教育

Ⅰ. 自己紹介

1. 自己紹介

  • 氏名:苅谷千尋(かりやちひろ)
  • 所属:金沢大学 教育支援センター
    • 主担当業務:高大接続コア・センター業務
  • 専門:政治学 > 政治思想史(イギリス)
    • 18世紀イギリスの議会政治の発展に、古典古代の著作(キケロ;サルスティウス;タキトゥス)の読解が果たした役割(レトリックの受容史)cf. 市民革命史観
  • Webサイト

2. 研究自己紹介

  • エドマンド・バーク
    • 18世紀後期英国議員
    • 保守主義の原理原則を論じた思想家とみなされる

確かに社会は、一種の契約である。……〔時々の利益を目的とするような契約であれば、好き勝手に契約解消も可能〕。しかし、国家stateを、胡椒やコーヒー……などの交易する際の協力協定partnershipとなんら変わらぬ存在とみなすべきではない。……国家は、今、生きている者、既に死した者、そしてこれから生まれてくる者のあいだの協定である。

  • バークや彼の時代に、レトリックに関する古典古代の著作はどう読まれたのか

  • シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』(1599)

    • 接ぎ木されるレトリックの伝統
      • 人文学のルネサンス
      • レトリックの効能と危険性
    • カエサルに対する葬送演説
      • ブルータス:カエサル(シーザーはカエサルの英語読み)は暴君になろうとしていたと暗殺を正当化(カエサルが死んで我々が自由になるか、カエサルが生きて我々が奴隷になるか)
      • アントニー:ブルータスを称えつつ、カエサルの功績を淡々と語る
        • 聴衆を味方につけ、ブルータスに復讐心を抱かせる
        • 民衆は暴徒化し、ブルータス、ローマから逃走(自害)

3. 校務(高大接続)

  • 高大接続リーディングセミナー
  • ボードゲームで学ぶ社会の平等と不平等
    • フランスで作られた、社会格差を知り、考えるためのモノポリー教材( セミナーの模様
  • 高大接続ラウンドテーブル
  • R言語を用いたデータの可視化(参考1

Ⅱ. 教材

  • ウェブサイト > ホームページ
  • レジュメ(resume)
    • 保存・印刷方法:キーボードの「E」でpdf出力可(Goggle Chrome推奨)
  • スライド(slide)
    • 保存・印刷方法:サイドメニュー(右側)のpdfをクリック
  • 動画(movie)

Ⅲ. シラバス

Ⅳ. リーディング・アサインメント

  • 引地さん / 尾﨑さん / 尾添さん / 今井さん / 吉野さん

Ⅴ. 「公民」/「公共」/「政治学」

1. 現代の政治現象

  • 例:立花孝志(N党)による選挙ハッキングと熱狂
  • なぜ、このような政治現象が生じるのか?
  • 「公民」/「公共」/「政治学」教育に問題があるのではないか?
  • 政治を教える者の責任
    • 直的的:中学・高校教育の責任
      • 学習指導要領・教科書・入試問題をこなすだけでよいのか?
    • 間接的:教員を養成する大学教育の責任
      • 学界の知見をわかりやすく教えるだけでいいのか?

2. 公民・公共教育、政治教育の敗北

  • 政治への無関心
    • 希薄な「主権者」意識
    • 「推し活」的政権支持・政権擁護(政治を政治と見ていない)
  • ポピュリズムの台頭
    • 実現可能性のない政策公約への支持
    • 「愛国心」の位置付け / 排外主義
      • 「愛国」の狭義解釈(スパイ防止法に反対する者は左翼) / 「害人」
  • 乏しいリテラシー能力
    • 「オールド・メディア」批判に乗せられる
    • 動画や画像による印象操作(「食べ方が汚い」首相はちょっと・・・)
    • SNSのフィルターバブルとマッチポンプ(「こたつ記事」)

3. 退屈な授業とその帰結?

  • 中学・高校で学習する「政治」単元は面白いのか問題
  1. 若者の政治参加が低いことは問題だ
    • なぜ低いのか、低いことがなぜ問題なのかを考えない
  2. 野党は批判ばかりで税金の無駄だ
    • 政治における野党の役割とは何かを考えない
    • 本当に野党は批判ばかりしているのかを調べない
  3. 解像度の低い議論
    • ウヨ/サヨ(パヨク) / 「右でも左でもない普通の日本人」
  4. 自責思考(希薄な他責観念。頑張らない者が悪い)

4. 政治の難しさ

  • 用語の難しさではない
  • 個人の行動と社会的成果との因果関係が遠く、直接的に見えにくい
    • 単純化したくなる(e.g. 陰謀論・友敵論)

⑴ 私的行為

  • 勉強時間を増やせば成績が上がる
  • アルバイトをすれば給料がもらえる
    • 行動と結果の関係が明確で、個人が直接的に成果を受け取れる

⑵ 政治活動

  • ルールを変えられるかどうかは不確実
  • 仮にルールが変わったとしても、その恩恵は社会全体に分配され、自分だけが独占できるわけではない(弱い動機づけ)
    • それでもいいという利他的な人しかできない
    • 利権構造に転換されやすい(政治が私的行為に)e.g. 既得権益/収益化

⑶ 集合行為論でみる政治

  • 個人が行動しても成果を独占できないため、参加動機が弱くなりやすい(フリーライド)
  • 政治参加は不確実性と公共性の両方が絡むため、個人の意思決定が難しい行動であり、社会的協力や組織化が必要となる
  • しかしながら、個人には、社会的協力や組織化する動機がそもそもない
    • 多数者は特に協力、組織化できない(生産者↔︎消費者)
    • 分割統治:被支配者の間に分裂状態を生じさせ、団結をむずかしくしておいて安定した支配の継続をはかる方法(『精選版 日本国語大辞典』)

5. 中等教育と高等教育の違い

中等教育:

  1. 語句解説が中心
  • 制度についての記述
    • 例:衆議院の優越とは
    • 例:三権分立とは
  1. 「政治的中立性」の要請
  2. 規範と記述を峻別しない
  • 建前や原則論にとどまる
    • 現実が理想から程遠いという印象をもつ

高等教育(研究者):

  1. 現象の解明が中心
  • 制度の運用と帰結までを対象
    • 例:衆議院の優越の行使回数、条件
    • 例:三権が融合する契機
  1. 学問の自由
  2. (批判を含む)解釈を重視
  • 例:三権分立は機能しているか?
    • 機能していないのであれば批判の対象

⑴ 政治的中立性

  • 学校における政治的中立性についての政府公式見解
    • 学校における政治的中立性の確保 規定の趣旨

〔教育基本法第14条〕第2項は、「公の性質」を有する学校においては、その政治的中立性を確保するため、教育内容に一党一派の政治的な主義・主張が持ち込まれたり、学校が政治的活動の舞台となるようなことは厳に避けなくてはならないことから、学校教育における党派的政治教育の禁止を規定するものである(総務省 (2023))。

  • 「特定の政党を支持し,又はこれに反対するための政治教育」

直接・間接を問わず,特定の政党を支持し,またはこれに反対するための政治教育,すなわち党派的政治教育をいう。したがって,学校教育において,ある政党の政策や主張を支持ないし反対するよう教育を行う場合などは本項により禁止される。なお,教員が政治的教養に関する教育を行う場合,党派的な主張や政策に触れることはあり得ることであり,各政党の政策等を批評することが直ちに本項に抵触するものではないが,その場合には,他の考え方や見方を紹介したり,異なる見解を示した複数の資料を使用したりするとともに,教員の個人的な主義主張を避けて中立かつ公正な立場で指導するよう留意しなければならない(総務省 (2023))。

⑵ 政治的に「中立」な授業

  • 政治に関する解釈、評価を避ける傾向に
    • 「客観的事実」の重視(暗記型の試験)
    • ️両論併記
    • ️「「政治的中立」は政治的意見もたないこと」と実質的に同義
    • 情報をアップデートすることがめんどくさい
      • 主権者教育に反する

⑶ 「政治的中立性」の研究:秦正樹・酒井和希 (2021)

  • 「政治的中立性」を遵守すべきか
  1. 国際比較
  • 日本の過剰な「政治的中立性」遵守の実態

諸外国と日本では、「教育の政治的中立性の考え方」が大きく異なっており、「教員が自身の政治的意見を発露しないこと」を政治的中立性の前提と考える日本が例外的ともいえる(秦正樹・酒井和希 (2021), p.24

  1. 実験(結果)
  • 若者の政治関心を高める有効策
    1. 教育における政治的中立性の原則を緩めるべき
    2. ただし、教員の政治傾向が生徒の政治傾向に一定程度、伝播することを考慮すべき

6. 政治学者ってどんな人?

⑴ 政治学者の共通点

  1. 素直じゃない(簡単には信じない)
  2. (新しい事実・解釈を面白がる)

⑵ 政治経験(政治史)の共有

  1. ソクラテスの民主主義批判
  • 荒廃したアテナイと冷笑的ソフィスト
    • カリクレス:正義は勝者の自己正当化
    • プロタゴラス:人間はそれぞれが尺度をもつ
  • 多数決で決めたことは「正しい」といえるのか?
    • プラトン:「正しさ」の探究(政治学の出発点)
    • アリストテレス:ウーシア(本質)と正義の関係を問う(『二コマコス倫理学』)
  1. ナチスの台頭とユダヤ人虐殺
  • もっとも民主的な国家がなぜ、もっとも抑圧的な統治の扉を開いたのか?
    • 民主主義の鬼子としての全体主義

⑶ 規範と実証をめぐる政治学者の対立

  1. 規範(こうあるべき)
  • 規範内の論理
    • 例:政治はどうあるべきか;自由の条件とは何か
  • 規範間の衝突
    • 例:自由と平等は両立するか
  1. 実証(こうある/こうあった/(こうあるかもしれない))
  • 一般的傾向の発見
    • 一般化:因果推論
    • 計量分析;決定的事例;逸脱事例
  • 運用の実態の解明
    • 制度よりも、慣習などインフォーマルな実態を重視
    • 例:長期政権の条件;政権交代の実態

7. 輸入言語:外来語という厄介な問題

  • right
    • 「正しい」と「権利」を同じ語彙で表現できる(することに意味がある)
  • justice
    • the fair treatment of people
    • the quality of being fair or reasonable
    • the legal system used to punish people who have committed crimes

Ⅵ. おすすめの番組・記事・本

1. おすすめのニュース系番組

⑴ ラジオ/Podcast

⑵ インターネットサイト

2. おすすめのニュース系記事

⑴ 時事論評(研究者ら)

3. おすすめの教科書

  • 法学部、政策系学部の政治学入門で、一般的に使われている教科書を紹介します

⑴ 教科書

⑵ おすすめの本

Ⅶ. 次回の授業と宿題

  • 次回:福祉国家と現代日本の課題
    • 12月17日(水)の配信を予定
  • 宿題:
    1. 授業の感想:
      • 回答先: Google Form
      • 締め切り:12月15日(月)23時59分
    2. リーディング・アサインメント:
      • 回答先:Google Form
      • 締め切り:12月15日(月)23時59分

引用文献

秦正樹・酒井和希 (2021) 「教育における政治的中立性が若年層の政治的態度に及ぼす影響」. 『生活経済政策』, No.288, pp.22–26. Available at: https://cir.nii.ac.jp/crid/1521980705934551552.
総務省 (2023) 「指導上の政治的中立の確保等に関する留意点」. Available at: https://www.soumu.go.jp/main_content/000815490.pdf.